マインドフルネスストレス低減法とは?

マインドフルネスストレス低減法 (MBSR: Mindfulness Based Stress Reduction) は、アメリカのマサチューセッツ大学医学部でジョン・カバットジン博士によって開発された、マインドフルネスを活用してストレスを低減するためのプログラムです。

1. 歴史

創始者のジョン・カバットジン博士は、1970年台のはじめ、マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業後、分子遺伝学を教える教職に就いていました。在学中からマインドフルネスに興味を持ち、韓国人の禅僧 Seung Sahn師などから禅の手ほどきを受け、マインドフル・ヨガのインストラクターをしていました。その後、マサチューセッツ大学(UMASS)医学部で教職を得ます。

ジョン・カバットジン博士

1979年の春、ジョン・カバットジン博士は、2週間のヴィパッサナー瞑想リトリートに参加した際に、病院の患者に対して、マインドフルネスを役立てるアイデアを思いつきました。当時、大学病院の医師から、それまでの医療では疼痛に悩む患者の10-20%しか救うことができないと聞いたそうです。

博士は、このアイデアをもとに、1979年9月、ストレス低減・リラクゼーション・プログラム (Stress Reduction and Relaxation Program) を始めました。その後、数年のうちに、ストレス低減クリニック (Stress Reduction Clinic) として、マサチューセッツ大学医学部の一部門として認められるようになりました。プログラムの名称は、その後、1990年台のはじめに、マインドフルネスを活用していることを明確にするため、マインドフルネスストレス低減法 (MBSR: Mindfulness Based Stress Reduction) と改称されました。

ジョン・カバットジン博士によると、初期のMBSR 関連の論文は、様々の流派の仏教やヨガを参照しているとのことです。テーラワーダ仏教のみならず、曹洞宗と臨済宗の両方の禅宗を含む大乗仏教、ベーダーンタ学派、クリシュナムルティ、ラマナ・マハルシなどのヨガの伝統からも引用されているとのことです。

ジョン・カバットジン博士が師事した禅師、Seung Sahn師は、曹洞宗と臨済宗の両方を取り入れ、特に公案を使った修行に力をいれておられたそうです。

ストレス低減クリニックは、その後、「マインドフルネスセンター (Center for Mindfulness)」 さらに、「医学・ヘルスケア・社会に関するマインドフルネスセンター (Center for Mindfulness in Medicine, Health Care, and Society)」 と改称されました。

MBSR は、身体的なストレスだけでなく、精神的なストレスに対しても有効であることが、数々のランダム比較テストで証明されました。これまで24,000人以上がこのプログラムに参加しています。

1990年台には、ジョン・ティーズデイル博士、ツインデル・シーガル博士、マーク・ウィリアム博士により、MBSR をもとに、再発性うつ病への対策に焦点をあてたマインドフルネス認知療法 (MBCT)が開発されました。

2. カリキュラムの内容

プログラムの期間

プログラムの期間は、オリエンテーションを除いて、8週間あります。マインドフルネスの習得には、マサチューセッツ大学医学部マインドフルネスセンターの研究と実績から、8週間続けて集中的に行うことが必要とされています。

クラスへの参加と自宅練習

プログラム参加者は、次のとおり、グループ学習のクラス参加と、自宅練習を行うことが求められます。

  • 8週間の間、週に1回、2-3時間のクラスに参加する。
  • 第6週と第7週の間に、朝から夕方までの全日クラスに参加する。
  • 自宅で、毎日の1時間の公式な練習を行う。さらに日常生活でのマインドフルネスを実践することが勧められる。

クラスでは、次のようなマインドフルネス瞑想の練習を行います。

実際の体験やグループ学習を重視

レクチャーを通じて学ぶことより、実際に体験することと、ほかの参加者との対話を通じた学習が重視されます。その方が、効果的にマインドフルネスを学ぶことができるためです。

宗教的ではない

このプログラムで学ぶ内容の背景には、仏教の考え方がありますが、クラスで仏教の用語や教義を学ぶことはありません。また、仏像に礼拝したり、お経を唱えるといったこともありません。カリキュラムの内容は、科学的な裏付けを得たものであり、新しい知見が得られれば、随時変更されます。

自分自身をいたわること

プログラムの参加者は、自分の身体をいたわるように講師からガイダンスを受けます。お年寄りや病気を持つ人でも参加できるように、ヨガのポーズは簡単なポーズが採用されています。座る瞑想では、床に座ることに慣れていない人は、椅子に座って行うように勧められます。

自分自身をいたわることは、マインドフルネスを実践するうえでも重要なことです。自分の身体や心をありのままに観察するため、自分自身に対してやさしい気持ちと好奇心を持つことがプログラム参加者には、機会があるごとに促されます。

3. プログラムの効果

プログラムに参加することによる効果は、以下のとおりです。ただし、すべての参加者にとって、これらの効果が保障されているわけではありません。

  • 身体感覚、集中力が向上します。
  • 現実の困難や身体的苦痛、精神的苦痛に対して効果的に対処できるようになります。
  • 自分自身を労わることができるようになります。

4. 科学的な根拠

多くの臨床試験により、マインドフルネスストレス低減法(MBSR) が、様々な精神的、身体的症状に対して効果があることが実証されています。以下は、アメリカ国立衛生研究所のウェブサイトに掲載された研究例です。

  • 不安障害: 93人の全般性不安障害の患者に対してMBSRとストレスマネジメント教育のランダム化比較試験をしたところ、いずれの方法でも症状の回復が見られたが、MBSRの方が、効果が大きかった。
  • 喘息: 42人のぜんそく患者に対してランダム化比較テストを施したところ、肺の機能に違いは見られなかったが、8週間のMBSRを受講したグループの方が1年後の生活の質(quality of life) が向上していた。
  • がん: 166人の乳がん患者に対して、8週間のMBSR のランダム化比較試験を行ったところ、MBSR を受講した患者は、うつ傾向、メンタルヘルスが大きく改善し、免疫反応についても大きな改善が見られた。
  • 慢性疼痛: 1960年から2010年までの間に疼痛とマインドフルネスをベースにしたプログラムに関する調査が16件報告されており、そのうち、ほとんどの調査(16件中10件) で、疼痛の大幅な緩和が確認された。
  • 糖尿病: 2型糖尿病の患者110人に対して、ランダム化比較テストを施したところ、MBSR を受けたグループの方が、5年後、うつ症状を発症する割合が低く、健康状態も良好だった。ただし、糖尿病のマーカー(アルブミン尿)のレベルは変わりがなかった。
  • 線維筋痛症: 177人の線維筋痛症の女性にランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受講したグループは、健康に関する生活の質 (health-related quality of health)の改善が見られ、さらに、うつ症状、痛み、不安、身体症状などでも改善が見られた。
  • 胃腸障害: 90人の過敏性腸症候群の患者にランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受けたグループは、症状の改善がより顕著だった。
  • 心臓病: 左室駆出率が40%以下の成人の心臓病患者208人に対して、ランダム化比較試験を実施したところ、マインドフルネスをベースとした8週間のトレーニングを受けたグループの方が、不安やうつが少なく、トレーニング後1年後もこの傾向が続いた。
  • HIV: ART療法を受けた結果、うつ症状の副作用を示しているHIV患者76人に対してランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受講した患者は、3か月後、および6か月後の調査でARTの副作用の頻度の減少が見られた。
  • ホットフラッシュ: 一日あたり平均5回以上のホットフラッシュが起こる女性110人に対して、ランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受講した女性は、ホットフラッシュが起こる率がそれ以外のグループよりも大きく減少した。また、MBSRを受講したグループは、生活の質がそれ以外のグループよりも大きく向上した。
  • 高血圧: 56人の高血圧前症の男女56人にランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受講したグループはそれ以外のグループよりも高血圧症の改善が見られた。
  • 気分障害: 39件の文献を調査したところによると、マインドフルネスをもとにしたセラピーは、不安障害、気分障害の改善に効果が認められた。
  • 睡眠障害: デンマークで乳がん手術後の不眠で悩む336人に対して、ランダム化比較試験を行ったところ、MBSRの8週間のコースに参加した人は、睡眠の質が大幅に改善し、12か月後の追跡調査でもこの傾向は変わらなかった。
  • ストレス障害: 中間管理職114人の被験者に対して、ランダム化比較試験を実施したところ、8週間のMBSRコースが、仕事に関するストレスを低減し、職場における心理的な適応力を強める効果があることが認められた。

5. プログラムの参加方法

マサチューセッツ大学医学部のマインドフルネスセンター (Center for Mindfulness in Medicine, Health Care, and Society)で認定を受けたMBSRクオリファイド・ティーチャー、または、サーティファイド・ティーチャーによって、および世界各地でMBSRプログラムのコースが運営されています。

日本で受講可能なコースは、以下のリンクをご参照ください。

日本で受講可能なマインドフルネスストレス低減法プログラム(MBSR) 8週間コース