疼痛とマインドフルネス

マインドフルネスストレス低減法 (MBSR) は、慢性疼痛で悩む患者のために、マサチューセッツ大学医学部でジョン・カバットジン博士が開発したものです。

ここでは、疼痛とマインドフルネスの関係について説明します。

1. マインドフルネスは医療の代替ではない

最初に、慢性疼痛に悩む方がマインドフルネスを試す場合は、まず、医師の診察を受けて、その指示、助言に従うことをお勧めします。マインドフルネスは、医療の代替にはなりません。

2. 慢性疼痛患者の悩み

ペインクリニックや緩和ケア科などの病院では、痛みを緩和するために、様々な治療を行います。心理アセスメントやカウンセリング、神経ブロックの手術、トリガーポイントへのステロイド注射、リドカインの点滴静脈注射、筋肉弛緩剤、鎮痛剤、理学療法、作業療法、針きゅう、マッサージなどの治療が行われます。

ところが、カバットジン博士によると、最新の治療を受けていても、疼痛のために抑うつ状態になったり、仕事につけなかったり、人生を楽しめない方が多いといいます。

3. なぜ、マインドフルネスが慢性疼痛に効果があるのか

3-1. 「今、ここ」に集中する

私たちの過去の痛みの感覚の記憶は、不正確なものです。

カーネマン博士の研究によると、内視鏡検査を受けた人に後で報告してもらうと、その痛さの程度は、検査全体の痛さや検査の長さとは関係なく、検査が終わるときの痛さに関係しているといいます。

また、過去の記憶は、それまでの経験や、その時の感情や健康の度合いによって悪い方にバイアスを受けることがあります。

過去の痛みの記憶は信用できません。

ところが、慢性疼痛の苦しみのかなりの部分は、過去の痛みの記憶とそこから引き起こされる恐怖や絶望などのネガティブな考えや感情を何度も反芻することから来ています。

マインドフルネスでは、「今、ここ」に意識を集中する練習をします。これにより、過去の痛みの記憶と、その記憶に結びついた恐怖や絶望から逃れることができます。

3-2. 「痛み」と「考えや感情」を区別する

私たちが痛みを感じるとき、無意識のうちに、いろいろな考えや感情が引き起こされます。「こんな苦痛に満ちた人生はいやだ」とか、「なぜ私だけこんな目にあうんだ」などです。

「痛み」と、無意識のうちに現れるネガティブな「考えや感情」は、無意識のうちに絡み合って一体化します。そこから苦しみを生み出しています。

ところが、「痛み」とそこから引き起こされる「考えや感情」は、別のものです。ジョン・カバットジン博士によると、これを意識的に観察することによって、苦しみの程度を和らげることができます。

マインドフルネスの練習では、「痛み」を、意識的に、ありのままの現象として観察します。この練習を通じて、「痛み」が「考えや感情」、「私自身」とは、別個のものであることを理解していきます。

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4. 科学的な根拠

4-1. 文献調査から

アメリカ国立衛生研究所の資料によると、1960年から2010年までの間に疼痛とマインドフルネスをベースにしたプログラムに関する調査が16件報告されており、そのうち、ほとんどの調査(16件中10件) で、疼痛の大幅な緩和が確認されています。また、一般的に、その効果はプログラム参加後も継続しているとのことです。

この資料では、マインドフルネスが、慢性疼痛の患者に対し、痛みから来る苦痛を緩和する効果がある、と結論付けています。

4-2. カバットジン博士の研究から

カバットジン博士の研究によると、8週間のマインドフルネスストレス低減法(MBSR)の慢性疼痛があった参加者のうち、

  • 72%の参加者の苦痛の度合い (PRI: Pain Rating Index) が33% 減少
  • 61%の参加者の苦痛の度合い (PRI: Pain Rating Index) が55% 減少

したそうです。さらに、以下の効果が確認されたそうです。

  • 身体に問題があると感じる程度が、30% 低下。
  • 日常生活が慢性疼痛によって妨げられていると感じる程度が 30% 低下。
  •  ネガティブな感情の状態が 55% 低下。その一方で、ポジティブな感情の状態の増加、不安・抑うつ・敵意の低下、薬剤利用の減少、活動量の増加、気分の向上が一般的にみられた。

さらに、4年間の追跡調査によると、次のことがわかったそうです。

  • 慢性疼痛を持つ参加者のうち93% は、4年後も何らかの形でマインドフル瞑想を継続して実践している。
  • ほとんどすべての慢性疼痛を持つ参加者が、4年後も、日常生活で呼吸に意識を集中することを実践している。
  • 慢性疼痛を持つ参加者のうち42%が、4年後も1週間に3回、15分以上のマインドフル瞑想を定期的に実践している。

以下を含む様々な種類の疼痛で改善がみられたとのことです。

  • 腰痛
  • 首の痛み
  • 肩の痛み
  • 顔面の痛み
  • 頭痛
  • 腕の痛み
  • 腹部の痛み
  • 胸部の痛み
  • 座骨神経痛
  • 足の痛み

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5. マインドフルネスの始め方

カバットジン博士によると、長期間にわたって慢性疼痛に悩まれてきた方は、受け身な態度になってしまう傾向があるそうです。

自分のことを「慢性疼痛の問題を理性的に解決しようとしている一人の人間」と考えて、自分の意志でマインドフルネスに取り組むようにします。

マインドフルネスの習得には8週間という時間がかかります。辛抱強く継続しましょう。また、あまり結果を期待しすぎると、それがマインドフルネス習得の障害になります。結果が出なくても失うものもない、という態度が望ましいです。

マインドフルネスを効果的に習得するには、8週間のマインドフルネスストレス低減法 (MBSR) のコースに参加するのがいいでしょう。

マインドフルネスストレス低減法 (MBSR) では、様々なマインドフルネス瞑想の方法を学びますが、疼痛で悩む方は、身体の各部分の観察を行う、ボディスキャンが効果的です。

6. ボディスキャンの方法

ボディスキャンでは、床の上に横になり、やさしい気持ちと好奇心を持って自分の身体の各部分を順番に観察します。

身体の痛い部分もありのままに観察して、その瞬間、瞬間の感覚を少しずつ、受け入れていくことを学びます。

さらに、痛い部分を観察するときに沸き起こる自分の考えや感情を、やさしい気持ちと好奇心を持って、ありのままに観察します。

  • 「ひどい痛みだ」
  • 「この痛みには耐えられない」
  • 「なぜ、自分がこんな目にあうんだ」

これらの考えや感情を観察し、これが痛みそのものとは別物であること、それから、これらの考えや感情が観察可能な自然な心の反応であって、自分自身とも別物であることを観察していきます。

7. まとめ

慢性疼痛をお持ちの方がマインドフルネスを試すにあたっては、医師の指示、助言に従いましょう。

マインドフルネスは、さまざまな慢性疼痛に効果があるとされています。これを示す科学的な根拠もあります。

マインドフルネスの習得には、時間と根気が必要です。効果的に学ぶためには、マインドフルネスストレス低減法 (MBSR) の8週間のコースに参加されることをお勧めします。日本で受講可能なマインドフルネスストレス低減法の8週間のコースは、下のリンクの通りです。

日本で受講可能なマインドフルネスストレス低減法の8週間のコース

 


出典:
Kabat-Zinn, J. 2013 Full Catastrophe Living