疼痛とマインドフルネス

マインドフルネスストレス低減法 (MBSR) は、もともと、慢性疼痛で悩む病院の患者のために、ジョン・カバットジン博士がマサチューセッツ大学医学部で始めたものでした。

ここでは、疼痛、特に慢性疼痛とマインドフルネスの関係について、説明します。

マインドフルネスは医療の代替ではない

最初に、慢性疼痛に悩む方がマインドフルネスを試す場合は、まず、専門の医師の診察、治療を受けて、その指示、助言に従うことをお勧めします。診察の結果、思わぬ病気が潜んでいるかもしれないですし、マインドフルネスが必ずしも、症状を改善するとは限らないからです。マインドフルネスは、医療の代替にはなりません。

慢性疼痛の特徴

ペインクリニックや緩和ケア科などの病院では、痛みを緩和する治療を行います。心理アセスメントやカウンセリング、神経ブロックの手術、トリガーポイントへのステロイド注射、リドカインの点滴静脈注射、筋肉弛緩剤、鎮痛剤、理学療法、作業療法、針きゅう、マッサージなどの治療が行われます。

ところが、カバットジン博士によると、最新の治療を受けていても、慢性疼痛を持つ方の中には、次のような悩みを持つ方が多いといいます。

  • イライラ、抑うつ、自己憐憫、絶望に襲われることがある。
  • 痛みのために職業に就く能力、人生を楽しむ能力を失うことがある。
  • 手術や投薬などの治療を続けても改善するとは限らず、結局、痛みと一緒に生きることを強いられるかもしれない。

なぜ、マインドフルネスが慢性疼痛に効果があるのか

痛みと苦痛

カバットジン博士によると、多くの人は、痛み(pain)と苦しみ・苦痛(suffering) を混同していますが、これは、別物であるとのことです。痛みは、身体が実際に感じる感覚です。これに対して、苦しみは、痛みに対する数ある反応の一つです。

  • 痛み (pain): 身体が実際に感じる感覚
  • 苦しみ・苦痛 (suffering): 痛みに対する数ある反応の一つ

重要なことは、痛みがあるとしても、いつも苦しみを感じるとは限らないということです。たとえば、軽い頭痛が、脳腫瘍かもしれないと思ったら、大変な苦しみを感じるかもしれません。ところが、そうでないとわかったら全く苦しみを感じなくなるかもしれません。

私たちが恐れているのは「痛み」ではなくて、「苦しみ」の方です。

痛みの事後報告は不正確

私たちの痛みの感覚は、後から振り返ると、不正確なものです。

カーネマン博士の研究によると、内視鏡検査を受けた人に後で報告してもらうと、その痛さの程度は、検査全体の痛さや検査の長さとは関係なく、検査が終わるときの痛さに関係しているといいます。

このように過去の痛みの記憶は、そもそも信用できないです。また、過去の記憶は、これまでの経験、その時の感情や健康の度合いによって悪い方にバイアスを受けることがあります。

過去の痛みを思い起こすより、今、この瞬間の痛みを観察する方が正確で、対処がしやすいのです。

マインドフルネスでやること

マインドフルネスの練習では、8週間かけて、「今、ここ」の自分の身体や心の状態をありのままに観察していきます。

自分の身体の痛みがある部分も、まず、一瞬だけ観察してみるところから始めて、徐々に心を開いて、その瞬間、瞬間の痛みをありのままに観察していきます。

その痛みで引き起こされる考えや感情についても観察し、「考えや感情」が「痛み」とは別のものであることを認識します。

さらにマインドフル瞑想を練習することにより、「痛みの感覚」、それに伴う「考えや感情」が、必ずしも「苦しみ」を伴うものではないことに気づきます。

このようにして、「痛みの感覚」、それに伴う「考えや感情」、これらから引き起こされる「苦しみ」を、それぞれ別個のものとして観察し、最終的に自分自身から切り離して行きます。

 科学的な根拠

文献調査から

アメリカ国立衛生研究所の資料によると、1960年から2010年までの間に疼痛とマインドフルネスをベースにしたプログラムに関する調査が16件報告されており、そのうち、ほとんどの調査(16件中10件) で、疼痛の大幅な緩和が確認されています。また、一般的に、その効果はプログラム参加後も継続しているとのことです。

この資料では、マインドフルネスが、慢性疼痛の患者に対し、痛みから来る苦痛を緩和する効果がある、と結論付けています。

 カバットジン博士の研究から

カバットジン博士の研究によると、8週間のマインドフルネスストレス低減法(MBSR)の慢性疼痛があった参加者のうち、

  • 72%の参加者の苦痛の度合い (PRI: Pain Rating Index) が33% 減少
  • 61%の参加者の苦痛の度合い (PRI: Pain Rating Index) が55% 減少

したそうです。さらに、以下の効果が確認されたそうです。

  • 身体に問題があると感じる程度が、30% 低下。
  • 日常生活が慢性疼痛によって妨げられていると感じる程度が 30% 低下。
  •  ネガティブな感情の状態が 55% 低下。その一方で、ポジティブな感情の状態の増加、不安・抑うつ・敵意の低下、薬剤利用の減少、活動量の増加、気分の向上が一般的にみられた。

さらに、4年間の追跡調査によると、次のことがわかったそうです。

  • 慢性疼痛を持つ参加者のうち93% は、4年後も何らかの形でマインドフル瞑想を継続して実践している。
  • ほとんどすべての慢性疼痛を持つ参加者が、4年後も、日常生活で呼吸に意識を集中することを実践している。
  • 慢性疼痛を持つ参加者のうち42%が、4年後も1週間に3回、15分以上のマインドフル瞑想を定期的に実践している。

以下を含む様々な種類の疼痛で改善がみられたとのことです。

  • 腰痛
  • 首の痛み
  • 肩の痛み
  • 顔面の痛み
  • 頭痛
  • 腕の痛み
  • 腹部の痛み
  • 胸部の痛み
  • 座骨神経痛
  • 足の痛み

マインドフルネスの始め方

カバットジン博士によると、特に長期間にわたって慢性疼痛に悩まれてきた方は、自分のことを「慢性疼痛の患者」とのみ認識し、受け身な態度になってしまう傾向があるそうです。自分のことを「慢性疼痛の問題を理性的に解決しようとしている一人の人間」と考えて、自分の意志でマインドフルネスに取り組むようにしましょう。

マインドフルネスの習得には時間がかかります。辛抱強く継続しましょう。また、あまり結果を期待しすぎると、それがマインドフルネス習得の障害になります。結果が出なくても失うものもない、という態度が望ましいです。

マインドフルネスを効果的に習得するには、8週間のマインドフルネスストレス低減法 (MBSR) のコースに参加するのがいいでしょう。

様々なマインドフルネス瞑想のうち、疼痛で悩む方は、ボディスキャンから始めるのが望ましいです。

ボディスキャンの方法

ボディスキャンでは、横になり、やさしい気持ちと好奇心を持って自分の身体の各部分を順番に観察します。

身体の痛い部分もありのままに観察して、その瞬間、瞬間の感覚を少しずつ、受け入れていくことを学びます。

さらに、痛い部分を観察するときに沸き起こる自分の考えや感情を、やさしい気持ちと好奇心を持って、ありのままに観察します。

  • 「ひどい痛みだ」
  • 「この痛みには耐えられない」
  • 「なぜ、自分がこんな目にあうんだ」

これらの考えや感情を観察し、これが痛みそのものとは別物であること、それから、これが観察可能な自然な心の反応であって、自分自身とも別物であることを見て取ります。

まとめ

慢性疼痛をお持ちの方がマインドフルネスを試すにあたっては、医師の指示、助言に従いましょう。

マインドフルネスは、すべての人に効果があるとは限りませんが、一般的に、さまざまな慢性疼痛に効果があるとされています。これを示す科学的な根拠もあります。

マインドフルネスを効果的に習得するためには、マインドフルネスストレス低減法 (MBSR) の8週間のコースに参加されることをお勧めします。


出典:
Kabat-Zinn, J. 2013 Full Catastrophe Living